おうみリハビリだより

近江温泉病院 総合リハヒリテーションセンターの回復期リハ病棟・介護医療院・医療療養病棟・認知症治療病棟・ 近江デイリハセンターの理学療法・作業療法・言語聴覚療法の紹介

療養病棟入院患者さんへの作業療法~意味のある作業について~

療養病棟で働くOTの思い①

 

 終戦前に生まれ激動の時代を生きてこられた80代のEさん。農林学校を首席で卒業した事、その卒業式には遠方から父親が来てくれた事等、長期記憶は良好で農業にまつわる話題では会話の疎通性が格段に向上します。しかし普段は認知症の影響もあり廊下をウロウロ、話かけても何を言っているかわからない…、他患者さんの部屋に入ってしまう…、といったような言動ばかりが目につきます。Eさんに、作業療法士は何ができるのか…?

 リハビリ室のある3階ベランダ、狭いスペースではありますが毎年春には花が咲き、夏には夏野菜が実っています。そこでEさんと田植えをし、生育具合を見にきて頂きアドバイスをもらいます。そして秋には稲刈り。この作業に携わっている時のEさんの何とも言えない穏やかで満足そうな表情。もちろんウロウロすることなんてありませんし、会話も盛り上がります。Eさんが1番輝いていた頃に戻れる時間なのかもしれません。外気に触れることで風を肌で感じ、懐かしい土に触れる感触や匂いを思い出し、稲の成長を一緒に願う。農業の普及に人生をかけてきたEさん、実際の稲を刈る等の作業自体は難しくても、農作業の場に参加する事でとても落ち着かれます!

 様々な人生経験を積み、多くの困難や苦労を経験されて今に至る高齢の方たち。重度の認知症であったとしても、少しでもいい表情を引き出したい、楽しかった!という感情を味わってほしい、と思います。たとえすぐに忘れるとしても…。人生の終盤に関わるという事は、何人もの患者さんの最期にも向き合わなければいけません。でも、だからこそ生きている時間の大切さや死生観について考えを深めたり、その時に何を患者さんに提供できるか、正解のない毎日の中で考え続ける事ができるのかもしれません。Eさんには、もしかしたらもっと意味のある作業があるかもしれません。でも、できるだけの情報を集め日々模索しながら自分達にできる事をやるしかないと考えます。

 当院作業療法科では今年度から、『PAL活動レベル』を用いた伝達支援シート(認知症をもつ方の活動評価・個別支援シート)を作成し、意味のある作業の選択、レベルに合った作業構成の検討を行っています。他職種への伝達や活用にはまだまだ課題はありますが、『PAL活動レベル』を用いて認知症をもつ方への支援をしっかりできるよう、今後も学び続けていきたいと思います。

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                           (作業療法士:青野貴子)

 

療養病棟で働くOTの思い②

 

 交通外傷後、当院に入院されてきた70代のSさん。事故から7カ月程たっていましたが、入院からしばらくは寝返りをするだけで「痛い!」と叫ばれ、四肢は脱力様でご家族も「車椅子に座れたらいいけど、無理でしょうね。」と話されていました。リクライニング型車椅子には何とか座れるようになったものの、担当の理学療法士と一緒に端座位の評価をした際には、予想通り「痛い!」の連呼ですぐに中断。その後、鼻に入っている管を抜いたり腕を掻きむしる等の理由で、仕方なく両上肢の拘束をせざるを得ない状況になってしまいました。昼夜逆転の日もあり、抑制帯をしていても管を抜くことが増え、リハビリの時間でさえミトン(手袋)や抑制帯を外せずどう関わってよいか悩んでいました。OTの私ができたのは、その都度状態にあった車椅子を選択したり、移乗動作時の介助方法を伝達したり…。そのうち終了間際にはいつも「また、来てな。」と言って下さるようになったので、私の顔は覚えてくれたのでは、と考えました。以降定期的に自室を訪問し、姿勢を直しながらご家族の写真を見て頂き、回想法で会話を実施する等の関わりを通してSさんの人生を知るべく、語りを引き出すよう努めました。穏やかな時は場所の移動をしても混乱がなかったので、畑やお花が好きだった事から3階のベランダに移動し、園芸の活動を提案。また対人交流の場を提供して社会性を引き出そうと試みたりもしました。

 そんな時、師長をはじめとする病棟スタッフが口から食べる事ができたら管を入れなくてもすみ、拘束もせずにすむのでは、と考えて下さいました。もともと嚥下機能に問題があったわけではなく、認知症等の影響から経口摂取不良との事だったので、言語聴覚士の力をかりて、口からの食事が問題ないかの評価を実施。ペースト食から始まり、現在は全粥・刻み食を朝・昼・夕、自力で食べられるようになりました。病棟スタッフのおかげで、ベッド上でも車椅子上でも両手を拘束され昼夜逆転、幻視のような症状まであったSさんが、自分でご飯を食べられるまでになったのです!それなら普通型車椅子の方がよいと考え、理学療法士の力をかりて再び端座位や移乗動作の評価をし、安全に普通型車椅子に座れることを確認。その後、上肢の拘束は外れ、とても穏やかな表情で日々を過ごせるようになりました。

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 OTがSさんの生活を劇的に変える事はできませんでした。でも熱意のある病棟スタッフと一緒に、その時々にできる事を考えながら患者さんに関われる、とってもありがたい病棟です。(※介護療養病棟には「認知症看護認定看護師」さん、また認知症治療病棟勤務の経験のあるベテラン看護師さんがおられます!)一OTにできる事は微々たる事かもしれませんが、他職種と共同・協力しながら患者さんの生活をよりよくしていけたら、と思います。やっと、当たり前の両手の自由を取り戻したSさん。Sさんにとって意味のある作業っていったい何でしょうか…。まだ明確には答えられませんが、それを考えながら関わっていきたいと思います。

                           (作業療法士:青野貴子)